【目次】
心理学の一分野に言語心理学というものがあります。
言語心理学は言語学と心理学の両方の性質を併せ持つもので、言葉やコミュニケーションを心理学的に研究する分野です。
言語に関する心理学的な研究アプローチは20世紀初頭のヨーロッパにおいてスタートしました。
最初期の言語心理学研究は、ヴントによって実施されました。
ヴントは科学的心理学の祖であり、世界で最初の心理学実験室を開設したことでも知られています。
そんなヴントを中心に、ドイツを中心に心理学の重要な一部門として言語心理学の研究は始まったのです。
より専門的には、この最初期の研究は「言語の心理学」(psychology of language)とよばれることが多くあります。
その後、心理学では行動主義が主流となり、対して言語学では構造主義が主流となっていきます。
これは心理学が「言葉を話す」という行動や、言語強化などの方向性を持っていたのに対して、言語学の構造主義は文章の構造や文法などの方向性を持っていたということになります。
このような状況の中で、1950年代にアメリカの言語学者であるチョムスキーが生成文法というものを提唱しました。
文を「生成する」とは「規則によって定義する」という意味であり、チョムスキーは「言葉の新たな捉え方」を提唱したともいえるでしょう。
それまでの伝統文法とよばれる従来の文法は、文の実例を挙げ、それに注釈を加えることにより、読者の判断に頼って類似の文の文法性を類推させるということをしてきました。しかし、生成文法は、明示的な規則や原理により、文法的な文と非文法的な文を原理的に区別するものとしています。
生成文法には、達成すべき記述能力と説明力が必要な条件として設定されています。
まず、ある言語の語彙からなる任意の文字列について、文法が適格文かどうか定義できる場合、その文法は「観察的妥当性」を備えた文法であるとされます。
次に、ある言語の適格文を定義するだけではなく、それらの文に母語話者の直感に合致した音声や構造や意味関係を与えることができる場合、その文法は「記述的妥当性」を備えた文法ということになります。
さらに、可能な文法の集合を定義する言語理論が、十分な制約を備え、個別言語の文法として記述的妥当性をもつ文法を選択できる場合、その理論は「説明的妥当性」を備えているとされます。
生成文法の誕生は「認知革命」ともよばれる、大きなムーヴメントとなりました。
チョムスキーは、言語はそれを話す(母語)話者の心・脳の中にあると考え、人間がもつ言語能力を言語学の研究対象にすべきだと主張しました。
これ以降、心理学的なアプローチを取る言語研究という意味で「心理言語学」という言い方が主流となっていきました。
ただし、チョムスキー自身は言語学は心理学(認知心理学)の下位部門であると言明していることもあり、「言語心理学」という名称の方が適切であるという考えもあります。
また、言語心理学(psycholinguistics)という英語の名称が広く使用されるようになったのは、1951年にアメリカのコーネル大学で開かれた言語心理学に関する夏期講座以降がきっかけであるとされています。

言語心理学では、子どもはどのようにして言語を習得するのかという言語獲得に関する研究が基本として存在します。
これは、どのようにして言語は失われていくのかという「言語喪失」の問題と表裏一体であると考えられており、言語障害・失語症と密接に関係しています。
次に、人間はどのようにして言語を使用するのかという言語運用に関する研究があります。
これは人間がどのようにして相手が言った言葉を理解するのかという「言語理解」と、人間はどのようにして相手に発する言葉を作り出していくのかという「言語産出」の2つの問題に分けて考えることができます。
さらに、言語の習得や使用を可能にしている言語能力の生物学的基盤に関する研究もあります。
この研究分野は、最近では神経言語学とよばれ、多くの研究が実施されています。
また、これら以外にも言語知覚や第二言語習得、バイリンガリズムなど多くの研究分野が言語心理学の中には存在しています。
最新の言語心理学の研究において、様々なことが明らかになっています。たとえば、バイリンガルに関する研究では脳の可塑性について明らかになっています。以前は、バイリンガルの人は認知機能が優れているという一定の結論が出されていました。しかし、最新研究では、言語の使用頻度・年齢・感情経験・社会文化・言語切替頻度などによって、脳の神経ネットワークが変化することが重要であるということが判明しています。つまり、バイリンガルは先天的な才能で決まるものではなく、環境によって変化する脳の適応過程の結果であるという結論に至っています。
また、言語と感情の結び付きに関する研究が急速に進展しています。その中でも特に近年、注目されているのが感情と言葉が表裏一体で切り離せない関係であるという事実です。例えば、ポジティブな文脈で学習した単語は記憶されやすい、感情を伴う用語は脳内での記憶の定着が強い、第二言語では感情反応が弱まることがある、などです。さらには、母国語で怒られるのと第二言語で怒られるのでは、同じ相手から同じ程度で怒られているにもかかわらず心理的ダメージが異なるということも判明しています。これは心的外傷後ストレス障害(PTSD)に関する研究や異文化適応、国際ビジネスなどの場面にも応用できる可能性があります。
そして、私たちが日々行っている会話についても最新の研究成果があります。研究の結果、会話は単なる情報交換ではなく、共同認知であり、会話をしている二人の脳が協調して意味を共同生成する過程であると考えられています。会話中の脳活動を測定した結果、相手の脳活動と自分の脳活動が同期することが判明しています。従って、会話では相手の意図予測・感情推定・文脈統合・社会的期待などがリアルタイムで相互作用しているということになります。
・初回投稿:2019年2月1日
・リライト及び新規追加:2026年9月2日
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部 「つぶやきコラム」は、医療・福祉・心理学・メンタルケアの通信教育スクール「TERADA医療福祉カレッジ」が運営するメディアです。 医療・福祉・心理学・メンタルケア・メンタルヘルスに興味がある、調べたいことがある、学んでみたい人のために、学びを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。