コラム

鏡と心理学の関係

2024.1.18 心理
  • 発達心理学
  • こころ検定(R)

鏡と心理学にはどのような関係があるのでしょうか。 

 

日本には365日の全てに何らかの「記念日」が制定されています。
11月30日は「鏡の日」に制定されています。
これは「いい(11)ミラー(30)」の語呂合わせからきており、鏡(mirror)を大切にしながら、健康で美しい生活を目指す日とされています。 

 

では、と心理学にはどのような関係があるのでしょうか。 

 

心理学の専門用語に鏡映的自己というものがあります。
ここでいう「鏡」とは、実際の鏡ではありませんが、鏡に映った自己像というものが、心理学的に重要なキーワードとなっているというものです。

鏡映的自己とは社会的自己の一種に分類される概念です。
まず、社会的自己とは、物質的自己・精神的自己・社会的自己の3つの区分される自己の1つです。
物質的自己は自分自身の身体・衣服・家族・財産などが含まれます。

 

精神的自己は個人の意識状態や心的能力、傾向性などが含まれます。
そして、社会的自己とは周囲の人々から受け取る自分についての認識に基づいて形成される自己の側面という意味があります。
そのため、社会的自己は、自分に対して何らかのイメージを抱いている他者が10人いたとすると、
10個の社会的自己が存在するということになります。
ただし、厳密には同じような他者からのイメージの場合はまとまったものとして存在することになります。

 

そして、この社会的自己の中に鏡映的自己という概念が含まれています。
鏡映的自己は他者の自分に対する言動や態度を手がかりとして、自分という人間が他者にどう思われているかを推測し、それに基づいて作りあげた「自分はどんな人間なのか?」についての理解を指します。
つまり、あたかも他者を鏡のように見なして、そこに映った自分の姿を確認することで、間接的に自分自身を理解する「ヒント」となるということです。
 

 

 

精神分析の分野でも「鏡」に関する心理学の専門用語があります。
フランスの精神分析家であるラカンは乳児が自己鏡像を初めて認知するに至る過程のことを鏡像段階とよんでいます。
ラカンは乳児は最初自分の全体像を知らない「分断された身体」あるいは「漠然とした衝動の塊」として生きていると述べています。
その上で、生後6カ月頃から18カ月頃にかけて、鏡に映る自分の姿との戯れ・関わりを通して、徐々にそれが紛れもない自分(もしくは自分の虚像・自分の鏡像)であることに気づくことができるとしています。
これは、精神分析における同一化機能の始まりであるとされており、また、自分の可視的・客体的全体像を把握するようになるきっかけであるともされています。
 

 

 

 鏡映的自己の「鏡」はあくまでたとえ話としての鏡でしたが、実際の鏡が関係している心理学的な現象もあります。
鏡映書字とは、字を書く時に鏡に映したようにひっくりかえった文字を書くことを指します。
いわゆる「鏡文字」のことです。
鏡映書字は子どものころによく認められる現象ですが、それ自体は発達心理学的には正常な現象であるとされています。
これは、子どもはまだ自他の左右認識の未分化や利き手の未分化の状態であること、生理心理的には大脳の左右半球の機能分化がまだ完全ではないことなどが原因であると考えられています。
人間は
5~6歳くらいまでは正しい文字・正しい図形と鏡映文字・鏡映図形を「似ている・同じ」であると知覚・認知することが多いということが判明しています。
そして、
7~8歳頃になると、鏡映文字・鏡映図形よりも45°回転した文字・図形を「似ている・同じ」と知覚・認知することが多くなるということが判明しています。 

 

 さらに、発達心理学の研究の中でも、特に65歳以上を対象とした老年心理学においても鏡映書字の現象が研究されています。
その中で、老年期にも鏡映書字の現象が認められることがあることが判明しています。
しかし、子ども場合と異なり、老年期の鏡映書字は脳機能や認知機能の低下などによって引き起こされると考えられています。
 

 

 

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