コラム

人間工学と心理学の関係

2018.6.7 心理
  • 心理カウンセラー
  • こころ検定(R)

 

 

「工学」と聞くと、理系の学問であり、心理学とは無関係なように感じる方も多いのではないでしょうか。

 

しかし、工学とは「人間のための」機械や装置に関係するものであるため、「人間が使いやすいと感じること」や「間違いが少ないこと」などのように、心理学的な要素が重要なのです。

 

そのため、工学には人間工学という分野があります。
人間工学とは、人間の諸特性を理解し、生活・労働の安全性、効率性、利便性、快適性を実現するための学際的研究領域です。
人間工学には、心理学をはじめとする、生理学・神経科学・解剖学・公衆衛生学・電子工学・システム工学・コンピュータ科学・生産工学等の学問が関係しています。

 

人間工学という用語は第一次世界大戦中にアメリカで誕生し、1940年代後半に入ってから、本格的な研究や書籍の出版がはじまりました。
最初期の人間工学の専門書はシャパニスらが出版した『応用実験心理学』であり、書名に「心理学」という言葉が入っています。

 

また、1950年にイギリスでアーゴノミックス学会(Ergonomics Research Society)が設立され、ケンブリッジにある応用心理学研究所(APU ; Applied Psychology Unit)が中心となって実験的研究を実施しました(アーゴノミックスとは人間工学の英名であり、日本語表記では「エルゴノミックス」とも記述します)。

 

アメリカでは、1957年にヒューマン・ファクターズ学会(Human Factors Society)が設立され、日本では1963年に日本人間工学会の第1回大会が開催されました。

 

人間工学の研究領域は非常に多岐に渡るものです。

 

たとえば、信号検出理論、注意とディスプレイ、空間認知、言語とコミュニケーション、記憶、意思決定、行動の選択、作業負荷、ストレスとヒューマン・エラー、プロセス・コントロール、動機づけ、技能の学習、人体計測、フィードバック制御機構、職務および組織設計、作業装置と空間の設計、環境設計、健康と安全のための設計(産業ストレス等)、選抜と訓練システムの設計、パフォーマンスのモデル化(人工知能やエキスパート・システム等)、コンピュータ化システムの設計(VDTワークステーションの設計やOAのヒューマン・ファクターズ等)、産業疲労、労働時間、作業条件の最適化などです。

 

 

人間工学の新たな潮流として、感性工学という分野があります。

 

感性工学は、日本で生まれ、世界へ伝わった比較的新しい技術工学です。
感性工学は、ある製品の一部分や一群の製品に関するユーザーの主観的感覚を取り上げて分析し、得られた知見を次の製品のデザインに組み入れるというものです。

 

感性工学の英語表記は「Kansei Engineering」であり、感性はそのまま「Kansei」と表記されます。
これは、感性という概念やニュアンスが日本に独特のものであり、英語で合致する言葉がないからです。

 

感性工学は、製品の使用者の感性を予想して提供しようとするものであり、使用者が感じる製品に対する「心地よさ」・「楽しさ」といった嗜好やフィーリングを分析・反映させていきます。
そのため、ファジィ論理カオス・フラクタル理論などが感性工学では応用されています。
日本では、1998年に日本感性工学会が組織されており、2018年は3月に年次大会が開催されています。

 

 

心理学のイメージとして、臨床心理学的・カウンセリング的なアプローチとしての「良くない状態を良い方向に変化させる」・「悪い状態を改善させる」というものがあるかと思います。
しかし、人間工学や感性工学のように「より良く」・「より便利に」・「より楽しく」という部分に焦点を当てる分野もあるのです。
そして、一見、文系のイメージがある心理学は、実は「半分は理系」の学問であり、工学などの理系分野とも相性が良く、私たちの生活を支えるものとなっているのです。

 

 

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この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部

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