心理

2020/8/11

心理学における遺伝と環境

心理学における研究では、長く遺伝と環境に関する問題が取り扱われてきました。

心理学には様々な分野がありますが、いずれも「仮説と予測」という流れがあります。心理学は、人間の心や精神について研究しますが、私たちがどのような人間なのかという仮説と、その仮説に基づいて、将来・未来に、その人がどのような行動を取るのかを予測するわけです。

 

たとえば、うつ病などの精神疾患の場合も、どのような人がうつ病になりやすいのか(仮説)と、実際にその人がどのような行動や生活を送り易いのか、どんな症状を発症しやすいのか(予測)を検討することで、予防や治療・支援を適切に実施することができると考えられます。

 

人間の心(精神)に関する仮説と予測には、常に遺伝と環境という観点が重要となっています。私たちの認知・感情・行動は、生まれつき決まっているのか(遺伝)、それとも生まれた後で経験・体験したことによって決定されるのか(環境)という問題は、心理学における長年の課題でした。

 

心理学では遺伝と環境の問題をめぐって、遺伝要因と環境要因のいずれか一方の機能を重視する孤立要因説(例:遺伝については生得説、環境については環境説)があります。また、両要因の統合性を強調する輻輳説、両要因間の動的な相互関連性あるいは自己調節性を重視する相互作用説という歴史的変遷をたどってきました。

 

孤立要因説は、発達やパーソナリティなどについては「全て遺伝で説明できる」もしくは「全て環境で説明できる」という考え方であり、それぞれがもう一方の要因は無関係であるという立場です。

 

しかし、この考え方は極端すぎるため、研究が進められていく中で、発達やパーソナリティなどの心理的な要因が遺伝のみ、環境のみで決定することはないというのが概ねの結論となっています。

 

続く遺伝・環境問題に関する輻輳説ですが、これは「遺伝という道」と「環境という道」の2つの道が“交わることなく”存在しているというイメージになります。発達やパーソナリティについて、遺伝が影響する部分は「遺伝のみ」が影響を及ぼしますが、環境が影響する部分は「環境のみ」が影響を及ぼすというものになります。

 

輻輳説は孤立要因説と比較すると、柔軟性に富んだ考え方です。しかし、輻輳説でも人間の心理を完全には説明できないケースもあります。たとえば、「人見知りが激しい」というパーソナリティ傾向を持つ子どもがいたとしましょう。

 

この時点で特に人見知りが激しくなってしまったきっかけがないのであれば、「人見知り」というパーソナリティ傾向は遺伝によるものであるということになります。輻輳説の観点から考えると、「人見知り傾向は遺伝によって決まり、成長に伴って、この傾向が変化することはなく、何らかの経験・体験によって人見知りしなくなることもない」という結論が導き出されます。

 

ですが、実際には人見知りの激しさを何とかしたいと考えた両親が、子どもに児童劇団でレッスンを受けさせるなどすることは、よくあることです。その結果、ステージに立ってお芝居をする、大勢の観客の前で歌うなど、およそ「人見知り」とは思えないような行動ができるようになる可能性も高いのです。これは輻輳説では上手く説明できない現象であるといえるでしょう。

 

現在、最も遺伝と環境の問題を適切に説明できるのが、相互作用説であると考えられます。輻輳説が「決して交わらない2つの道」であったのに対して、相互作用説は「2つの道が時に直進し、時に交わる」というイメージです。

 

前述のような人見知りの例で言えば、元々、子どもの頃から人見知りが激しかったという遺伝的要因が、その後の環境要因(例:児童劇団でのレッスン経験)によって変化したということになります。

 

これは遺伝要因という“道”が、途中から環境要因という“道”と交わり、ある程度の段階からは、今度は環境要因の“道”を直進していくというイメージです。また、遺伝的要因が、その後の経験・体験でより強まるというケースもあります。これは2つの道が合流して広い大きな道となって、さらに進んでいくというイメージです。

 

このように、私たちの心理的要因は遺伝と環境の相互作用として捉えるということが、現在の主流の考え方になりつつあります。さらなる研究が重ねられることで、相互作用にも、遺伝の影響が強いもの、環境が影響を及ぼすタイミングなどの多様な観点から新たな事実が明らかになっていくと考えられます。

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