コラム

感情に訴えることの心理学的な意味(2)

2023.4.20
  • 心理学的手法
  • 感情心理学

 

感情に訴えるメッセージは、心理学的にどのような意味があるのでしょうか。 

 

 

私たちはコミュニケーションの過程で、自身の感情を表現することがあります。同様に他者から感情を表現され、それを受け止めることもあります。
では、このようなコミュニケーションにおける感情表現は心理学的にどのような意味を持つのでしょうか。 

 

 様々な心理学的な研究の結果、感情表現やそれに伴う感情に訴えるメッセージには、人間の意思決定や行動に影響を及ぼすことが判明しています。
しかし、感情を露わにした側、メッセージを発信した側が想定した通りの効果を示さないケースもあることが判明しています。
 

 ボランティアの一環として実施される募金活動(チャリティー募金)に関する実証実験が実施され、その成果が研究発表されています。
その中で、どうすれば募金してくれる人を増やすことができるのか、募金額を増やすことができるのかが心理学的な観点から検討されています。
そこで取り上げられたのが、募金をしてもらうためのメッセージと感情の関係性についてです。

 

では、まず1つ目の募金を訴えるメッセージを見てみましょう。 

 

A: 『アフリカのX共和国では、国民の85%以上が貧困に苦しんでいます。また、13歳以下の子どものうち、95%以上が学校に通うことができず、低賃金で1日中働かなければならないという生活が常態化しています。さらには、医療体制も構築できておらず、平均寿命は47.85歳であり、国連加盟国の中でも最下位となっています。』 

 

 上記が1つ目のメッセージです。では、続いて、2つ目のメッセージを見てみましょう。 

 

B: 『アフリカのX共和国に住んでいるポディマ・サレンソンちゃんは7歳の女の子です。サレンソンちゃんの家はとても貧しいため、本当は学校に行きたいけれど、毎日お母さんと一緒に畑仕事をして暮らしています。サレンソンちゃんが一生懸命働いても、家計はとても苦しく、病気や怪我をしても、病院に行くことができないことも多いです。』 

 

 このようなAとBの2つのメッセージがあるとします。
皆さんはどちらのメッセージの方が募金してくれる人・募金額が多くなると思いますか?
結論としては、Bのメッセージの方が募金してくれる人・募金額が多くなりました。では、AとBのメッセージでは何が異なっているのでしょうか。
 

 

 Aは「国民の85%以上」「13歳以下の子どものうち、95%以上」「平均寿命は47.85歳」などのように数値による具体的なデータが多く含まれています。
また「X共和国」という国全体の社会情勢がしっかりと説明されており、より現実の状況が理解されやすいメッセージになっています。
そして「非常に多くの人々が困っている」ということが伝わるはずです。

 

一方でBの方は「ポディマ・サレンソンちゃんという7歳の女の子」の1人の子どもの話だけが述べられています。
Aと異なり統計的な数値データはなく、また、多くの人が困っているということではなく、1人の子どもの苦労が語られているだけです。
 

本来、Aのメッセージの方がより客観的・具体的に「X共和国」の現状が説明されているので、Aの方が募金の必要性が伝わり、募金という行動が促進されるはずです。
しかし、結果として、AではなくBの方が募金という行動が促進されたわけです。
これは、客観的・具体的な数値データよりも、ストーリ性のある感情に訴えるようなメッセージの方が人間の意思決定や行動を変化させることになるということを示しています。
 

 

では、このような感情に訴えるメッセージを募金活動などのボランティア以外のビジネスに活用することはできるのでしょうか。
研究成果を応用すれば、感情に訴えるメッセージを活用することで、商品・サービスの販売促進をしていくことができるはずです。
ただ、このような感情に訴えるメッセージをビジネスに活用することは法律的な問題を含む可能性が指摘されています。
日本の法律における軽犯罪法の中に「不特定多数の人の同情を買って、生活費などをもらおうとする行為」「相手に何の見返りも提供することなく『哀れだ』という同情を誘って金品をねだる行為」は違法行為であるとされています。
 

 

このように、心理学的に効果的であるという手法も法律的に問題があるとされることもあるため、注意が必要な場合があるのです。 

 

著者・編集者プロフィール

この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部

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