コラム

心理学は信用できる科学なのか?

2023.7.13 心理
  • 心理学入門
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心理学などの学問の研究成果は、そのまま信じてしまってもいいものなのでしょうか。 

 

これまでに多くの科学的な研究成果が実社会で応用されています。
また、そもそも、実社会での様々な問題を解決するために科学的な研究や実験が繰り返されているという側面もあります。
一方で、実験などで明らかになった事柄が、別の機会に再現しようとすると、上手く再現できないという、科学の再現性の問題もクローズアップされるようになっています。
 

 

そもそも、再現性とは、科学的な研究において非常に重要なものとされています。

たとえば、研究論文や研究発表抄録の書き方の作法として「この研究について、全く知らない人が読んでも、順番に読んでいけば、実験や調査を再現することができるように書く」という大前提があります。
また、心理学においては、得られたデータの統計学的な解析も実施するため、一回の実験・調査で得られた結果が、どのくらい汎用性があるものなのかも確認されています。
しかし、再実験などを実施した際に、全く同じ手順で実施したにもかかわらず、同じ結果が得られないというケースもあります。
再現性とは重要なものであると同時に、非常に複雑で難しいものでもあるわけです。 

 

再現性の難しさというものが注目されていますが、科学的な事象として、最も再現性が高いものには、どのようなものがあるでしょうか。
日常生活の例でいえば、お湯を沸かすということが最も身近で、かつ、最も再現性の高い科学的な事象であるといえるでしょう。
水は100℃になると沸騰し、お湯になります。
これは物理学・化学における1つの研究成果であり、あまりにも当たり前の事柄ではありますが、非常に再現性が高いです。
なぜなら、対象が水なのであれば、それはどこで、誰が、どのような方法で加熱したとしても、必ず100℃で沸騰するからです。
日本であろうと、アメリカであろうと、水は100℃で必ず沸騰します。
また、Aさんはお湯を沸かすのが上手いが、Bさんは下手だ、などのように、個人差などが影響することもありません。
そして、ガスであろうと、焚火であろうと、IHヒーターであろうと、方法や道具がなんであれ、100℃になれば水は沸騰します。これは、言い換えれば「再現率100%」の科学的実験であるということになります。
 

 

では、心理学の研究成果の再現率はどうなのでしょうか。
残念ながら、近年の調査の結果、心理学における研究成果の再現性は30~40%程度であると言われています。
これは、たとえ統計的に有意であったとしても、同じ結果が得られないことがあるということを示しています。
 

 

科学には様々な分野がありますが、いわゆる自然科学という分野は物理学や化学、生物学などが該当するものです。
これらの分野は数学的な背景があり、実際に存在する分子や化合物、生物(細胞)などを対象としているため、目で見て(顕微鏡で見て)確認することができるものが多いです。
そして、たとえば、実験室の中で水素という原子に特定の変化を及ぼすアプローチを発見することができれば、他の世界中のどこにある水素原子にも同じことがあてはまるといえるわけです。


しかし、心理学は自然科学を目指して100年以上前から研究が進められているものの、やはり人間の「心」という目に見えないものを扱っているため、物理学などのように何もかも数字で明確に示せるような分野ではないという問題があります。
また、心理学は人間を対象としている時点で、どうしても個人差というものを扱う必要が出てきます。
物理学において、水素原子は100万個あったとしても、そこには基本的に差は存在せず、全て同じ特徴を有する原子です。しかし、人間が100万人いれば、それは100万通りの差が存在しているはずであり、1つの研究成果から「この結果を受けて、全ての人間には共通した心理学的な特徴がある」と言い切ることはできません。
ただし、心理学はそもそも「個人差の研究」というところからスタートしたという部分もあり、再現性にこだわる学問ではない、という考え方もできるかもしれません。
 

 

科学的な研究の再現性が注目される中、けして心理学の再現性は高くはありません。
だからこそ、今後、一層、精密な研究成果を蓄積し、時には追試や再試を繰り返していくことも必要であると考えられます。
 

 

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