コラム

算数と心理学の関係

2023.9.7 心理
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算数と心理学には、どのような関係があるのでしょうか。 

 

 算数は小学生の段階で初めて体系的に学び、その後、中学・高校、専攻によっては大学までずっと勉強し続ける学問の1つです。
私たちにとって、簡単な計算や数字の概念というものは非常に重要であり、普段は意識しないものの、日常生活にとってなくてはならないものとなっています。では、そんな算数と心理学には、どのような関係があるのでしょうか。
 

 

数字の概念

 

数字というものは非常に便利なもので、たとえ、日本語以外の言語圏であっても、アラビア数字さえわかれば、計算も解答も世界中どこに行っても同じです。
そのため、世界における共通言語は数字であるという考え方もあります。

では、そんな数字に対する概念を私たちはどのように身につけるのでしょうか。
数字は抽象的な概念ではありますが、頭の中で考えるという意味で認知的な能力が強く関係しています。
そのため、情報処理能力や計算能力は認知心理学と発達心理学の分野における認知発達の研究対象となっています。

たとえば、単純に子どもが何か「モノ」を数えるという場面を考えてみましょう。
1つずつ数えていく場合、数えたモノと数えていないモノに関する情報(どこまで数えたか)を短期記憶に留めておくという必要があります。
そして、1つ1つの個別の数と合計して何個あるのかという全体の数というものを概念として把握することができます。
そして、それが理解できるようになると、いわゆる「掛け算」や「割り算」の基本を理解することができるようになります。
そして、こういった数の概念の理解は精神発達との関連が強く、まずは単純に数を数えるというところからスタートするのが小学校1年生くらいであり、それを数式として考えるのが「足し算」や「引き算」です。
そして、これを発展させる形で小学校2年生で「掛け算」や「割り算」を学ぶわけです。
日本をはじめとする学校教育では、認知的な能力の発達を考慮した算数のカリキュラムが作られているわけです。

 

数の概念における重要な要素の1つとして数の保存に関する概念があります。
発達心理学者のジャン・ピアジェは数は見かけが変わっても数の大きさそのものには変化がないことを数の保存の概念として定義しました。
たとえば、5個のボールを間隔を空けて置いた場合と、間隔を狭くして置いた場合でも、数の大きさは同じであるということです。
しかし、子どもはまだ感覚的な認知が強いため、ボールの間隔が広い方が「たくさんある」と考えてしまいます。
これは、数の保存の概念がまだ獲得できていないということを意味しています。
ピアジェは認知発達に関する研究から、児童期(6歳ころ)には数の保存の概念を獲得することができるとしています。
 

 

算数に関する精神疾患

 

 精神疾患の一種として、神経発達症(発達障害)があります。
そして、この神経発達症(発達障害)の中に限局性学習症という疾患があります。
限局性学習障害とは、これまで「学習障害」とよばれていたものが名称変更されたものです。
限局性学習症とは、知能指数(IQ)には特に問題がないものの「文章を読むことだけ」とか「計算をすることだけ」が上手くできないという症状を示すものです。
そのため、限局性学習症には下位分類として、書字障害や読字障害、算数障害などが設定されています。
これは学校の授業で先生から教えてもらっても改善するものではありませんが、では、当事者の児童・生徒が勉強に不真面目かというと、決してそうではないという状態です。

また、不得意ではない教科や科目については何のも問題もなく、授業にもついていけます。
従って、これまでの名称である「学習障害」では、「勉強全般ができない・支障がある」というニュアンスで受け取られやすいため、「限局性学習症」と名称を改めることで、「特定の限られた分野の学習にのみ問題がある」というように、実際の症状の状態に合わせた改訂が加えられています。

 

そして、この限局性学習障害の下位区分として算数障害(算数の障害を伴う状態)があります。
具体的には、数の感覚・数学的事実の記憶・計算の正確さ・計算の流暢性・数学的推理の正確さなどの問題を抱えてしまうというものです。
ただし、前述の通り、知能指数(IQ)には問題がなく、学校の授業を真面目に受けていないなどの素行上の問題もないが、算数・計算に関する能力だけに問題があるという状態が算数障害(算数の障害を伴う状態)なのです。
限局性学習症(算数障害)には様々な原因があるとされていますが、遺伝的要因や早産、極低体重出生、ニコチンの影響などが代表的であると考えられています。
 

 

著者・編集者プロフィール

この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部

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