コラム

知識の心理学

2022.3.11
  • 発達心理学
  • 認知心理学

 

 

私たちが持つ知識とは、心理学的にはどのように捉えられ、また、どのように獲得・利用されるものなのでしょうか。知識とは、人間の「知ること」(knowing)にかかわる事柄の総称です。知識は古くから哲学や認識論でも取り扱われてきており、心理学でも理論によって知識の捉え方には様々なものがあります。 

 

学習心理学(行動分析学) 

 

学習心理学(行動分析学)では、「刺激 = 反応理論」(S-R理論)があり、基本的には刺激と反応の連合や結合の束の中に知識の獲得があるとされています。学習における知識獲得は、経験の反復による熟達化や事例からの帰納、観察学習、既有知識領域からの推論、特に類推による転移によって支えられていると説明されています。 

 

【認知心理学】 

 

一方で、認知心理学における情報処理アプローチの考え方では、学習心理学(行動分析学)では取り扱われなかった心の内的なプロセスをコンピューターと仮定して、情報処理という観点から研究が進められました。そのため、認知心理学的な観点では、知識とは最終的には長期記憶に蓄積されたものとして仮説が確立されました。つまり、知識獲得とは個体(人間・動物など)が外界との相互作用によって情報を長期記憶、その中でも特に意味記憶内に貯蔵する過程であると定義されています。 

 

■意味記憶 

 

意味記憶とは、たとえば「dogという英単語の意味は日本語にすると犬である」などです。これを言い換えれば、英単語に関する知識がある、ということになるわけです。また、知識獲得は量的増加とともに、再構造化の過程でもあるとされています。発達における急速な知識獲得には、個体の持つ生得的知識の原初形態や習得的方略が適切な情報を獲得し、不適切な情報を排除するような制約として働いていると考えられています。 

 

【発達心理学】 

 

学習心理学(行動分析学)・認知心理学とは別に、発達心理学的な観点も知識について考える際に重要となります。 人が一生涯の中で変化・発達する中で獲得する知識においての研究も進められています。

 

■個人構成主義による「知識観」 

発達心理学者のピアジェが提唱した認知発達理論では、より能動的な知識観が提示されています。ピアジェは何か物事を認知する個体には、認知構造(知識構造)があると考え、それが環境と相互作用する中で構成されていくという仮説を立てています。つまり、ピアジェは「知識は伝達されるのではなく、能動的に構成される」という構成主義の立場から知識について捉えています。 

 

■社会構成主義による「知識観」 

この「個人」という考え方が基調とする個人的構成主義による「知識観」とは逆に、社会的構成主義では「知識は社会的に構成される」という考え方を採用しています。 

 

―AI(人工知能)に発展した研究― 

 

知識とは人間に特有のものという考え方もできますが、そこから発展させて、AI(人工知能)についても、知識に関する心理学的な研究成果が活用されています。人工知能に関する研究においては、知識表象・知識表現という専門用語があります。外部世界に認知システムが適切に働きかけるには、その世界を鏡のように映す内的な知識表象が必要であるという理論があります。この知識表象には、様々な理論があります。 

 

代表的なものとして、心理学者のブルーナーは、人間が世界を表象する方法には、 以下の3種類があると述べています。

  1.  行為の水準による行為的表象 
  2.  イメージの水準による映像的表象 
  3.  言語や記号などシンボルの水準による象徴的表象次

 

そして、ブルーナーは前述のピアジェが提唱した認知発達の理論とも関連させて、知識表象はここに掲げた行為的表象・映像的表象・象徴的表象へと発達的に進んでいくものであると述べています。しかし、近年の研究でピアジェの発達段階説に疑問が生じてきたこともあり、当初の仮説通りに知識の発達的推移に関する理論は成立しないのではないかとも言われています。このような知識表象の研究が進む中で、最近では知識表象が無い状態でも知的に振る舞うことができるロボットの研究開発なども実施されています。 

 

 

著者・編集者プロフィール

この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部

「つぶやきコラム」は、医療・福祉・心理学・メンタルケアの通信教育スクール「TERADA医療福祉カレッジ」が運営するメディアです。
医療・福祉・心理学・メンタルケア・メンタルヘルスに興味がある、調べたいことがある、学んでみたい人のために、学びを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。

関連記事