心理

2020/7/16

「うそ」の心理学

心理学において、「嘘」とは、どのように研究され、どのように定義されているのでしょうか。

うそ:

 

一般的に「うそ」とは、意図的に他者を騙すことを目的とした陳述(コミュニケーション)のことを指し、単なる不正確な陳述(知識不足、言い間違い、勘違いなど)とは異なるものであるとされています。心理学者のウィルソンらは、うそを5つのタイプに分けています。

 

(1)自己保護のためのうそ:

 

罰や他者からの非難、不承認(認めてもらえない、許可が得られない)を避けたり、バツの悪さを避けることを目的としたもの。

 

(2)自己拡大のためのうそ:

 

実際よりも自分を良く見せようとするために用いられ、注目や承認などを得るために自分の能力や所有物、成し遂げたもの(成功体験)を自慢したり、ホラを吹くなどが該当する。

 

(3)忠誠のためのうそ:

 

誰かを守るために、その人の違反行為・問題行動について間違った供述をするといったうそ。いわゆる、偽証や擁護などのことを指す。

 

(4)利己的なうそ:

 

物質的な利益(お金など)を得ることを目的とするうそ。詐欺などもこれに含まれる。

 

(5)反社会的・有害なうそ:

 

意図的に他者を非難したり、けなしたりして、その人を傷つけることを目的としたもの。インターネット上での誹謗中傷や、フェイクニュースなどもケースによっては、この「うそ」に含まれる。

 

うそは、社会的適応の面で現在・将来にわたる問題行動の重要な指標として考えられています。たとえば、精神疾患の世界的な診断・統計マニュアルであるDSMでは、反社会的行動や問題行動、攻撃行動と同列で「うそをつくこと」が含まれています。また、統計学的な因子分析に関する研究では、うそは非行や問題行動の主要な因子であるということが判明しています。

 

うそと近い言葉に「あざむき」というものがあります。あざむきは、人間だけではなく、動物にも「あざむき行動」として認められるものです。具体的には、意図的に誤った情報を流し、他者の行動を誤導(ミスリード)することによって、自らが利益を得ようとすることを指します。

 

意味的には「うそ」と似ていますが、うそは言語的なものであるものの、あざむきは「知らないふりをする」など非言語的行動も含まれます。また、あざむきを行うためには、そもそも他者の知識や信念を利用することが必要となります。従って、相手の考えていることや気持ちなどが分かった上でないと、他者をあざむくことはできないのです。

 

そのため、発達心理学における心の理論が成立している状態でなければ、他者をあざむくことはできないと考えられています。

 

もう1つ、うそと近いニュアンスのものにディセプションというものがあります。ディセプションとは、他者に対して意図的に「うそ」であることを「真実」であるように信じさせることを指します。

 

ディセプションには、 ①うそをついてだますこと、 ②不正確・不完全な情報の伝達すること、 ③必要な情報や事実の隠蔽、という3つの種類があります。

実は心理学の中でも、社会心理学の研究では、あえてディセプションを利用することがあります。社会心理学の研究におけるディセプションの目的と機能としては、複雑で流動的な現実の社会的状況を実験室に再現することや、実験参加者の様々な不安や期待が実験室での反応や行動に影響するのを防ぐことなどが挙げられます。

 

心理学者のレヴィンとフェスティンガーは、特にディセプションを利用した研究方法を強く推奨していました。また、心理学者のコーンは、ディセプションを用いる研究において、実験室は小さな劇場となり、研究者は脚本家・舞台監督、実験者は主演俳優、実験協力者は助演俳優として登場するとしています。

 

このような状況のなかで、実験参加者は実験場面を現実そのものと錯覚して反応し行動します。最終的に、研究の成果がまとめられ、発表されれば、観客として研究論文を読む読者が現れることになります。社会心理学における多くの重要な法則とそのメカニズムは、このような実験を通じて解明されています。

 

しかし、ディセプションは研究倫理の側面から強い批判を受けてもおり、その代替研究法が模索されてきています。アメリカ心理学会(APA)は、ディセプションを使用する研究に対して、厳格な倫理基準を設定しています。

 

また、ディセプションを用いた場合は、実験終了後にデブリーフィング(種明かし)をしなければならないという大前提もあります。

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