よく「催眠術」というものが、テレビのバラエティ番組などで取り扱われることがありますが、では、そもそも催眠とはどのような状態なのでしょうか。一言で「催眠」と言っても、実は2つの別々の事柄が含まれています。1つは催眠状態とよばれる意識状態であり、もう1つは、催眠状態において生じる催眠暗示現象のことを指します。意識状態としての催眠は、現実感覚が薄れ、理性的思考が緩み、想像の世界の中に入り、想像自体が現実味を帯びるような意識状態と考えられています。この意識状態は、催眠性トランスともよばれます。この意識状態は変性意識状態(ASC)の一種であるとされ、催眠意識状態に関する研究は、ASCとの関連で行われることが多いです。
一方で、催眠暗示現象の代表的なものには、いくつかの種類があります。まず1つ目は、運動性の暗示現象として、四肢などが動くあるいは動かない、固くなる現象などです。もう1つは、知覚性の暗示現象であり、たとえば、痛みや温感、味覚、聴覚、触覚などにおける知覚の変容を指し、特に身体知覚における暗示現象は発生しやすいものであるとされています。そして、人格性の暗示現象というものもあり、これは年齢退行や健忘、自動書記、人格交替、後催眠暗示などの様々な暗示現象を含みます。これらの暗示現象は基本的に、他者から「かけられる」ものですが、自分自身で暗示をかけるというものもあり、これは自己催眠や自己暗示とよばれます。
テレビ番組などを見ていて「催眠術なんてウソで、ただ演技をしているだけではないのか」と思うこともあるかと思います。実際に、暗示現象と同じ行動を演技的に行うことは可能です。しかし、本物の暗示現象は演技と大きく異なり、その人自身には自分が行っている感覚がありません。
このような催眠による精神状態を利用する心理療法が催眠療法です。実はフロイトやユングによる精神分析療法や分析心理学も元々は催眠療法の影響を受けて誕生したモノでもあります。最も古いタイプの心理療法でもある催眠療法ですが、現在は主に以下の3つのアプローチに分かれています。
(1)暗示催眠療法
暗示催眠療法は、催眠現象の中の暗示の特徴を重視した催眠療法です。暗示の与え方には主に2つの種類がありますが、現在はミルトン・エリクソンの開発した間接暗示が主流となっています。間接暗示は、直接に求める状態を暗示するのではなく、別の状態を媒介させることによって求める状態へと変化させようとするアプローチです。ミルトン・エリクソン以前は、発生させたい状態を直接的に暗示する直接暗示が多かったとされています。
(2)リラックス催眠療法
リラックス催眠療法は、催眠の意識状態を重視したアプローチです。催眠状態では、現実的な事柄から対象者が解放され、心理的安全地帯に誘導することによって、治療・支援をしていくことができます。
(3)イメージ催眠療法
イメージ催眠療法は、イメージの側面に重点をおいた催眠療法で、イメージ空間の中での体験を重視します。催眠下で、体験を深めることによって、体験の変容を求める方法や、精神分析的なアプローチ、分析心理学的なアプローチ、行動療法的アプローチなど、様々なアプローチがあります。
上記の3つのアプローチに共通し、なおかつ催眠療法全体に流れるテーマとして、体験・経験を重視するということが挙げられます。ここで言及される体験・経験とは、催眠状態という特殊な状況下におけるものであり、そこからメタファーや象徴を解釈することにより、治療・支援へとつなげていきます。
催眠療法を専門的に実施できる精神科医や心理カウンセラーは非常に少ないというのが現状です。これは、催眠療法が非常に高度な知識・技能を必要とするものであることと、単に知識だけがあっても実践に関する専門的な経験が付随しなければならないからです。そんな中でも、国内では日本催眠医学心理学会という学術団体があり、精力的に研究と実践に取り組んでいます。
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