コラム

「顔」の心理学

2020.8.13
  • 生理心理学
  • こころ検定4級

私たちは心理学的に「顔」というものに強い影響を受けながら生活をしています。

 

 

私たちは自分の顔、他者の顔に対して、心理的に敏感に反応することができます。これは、心理学的・社会学的に、顔・表情への「気づき」が非常に重要な要素だからです。

 

私たちには顔認識という能力があります。
顔認識とは、顔という共通した基本構造を持つ非常によく似た視覚パターンについて微妙な差異を見分け、しかも瞬時に認知する高度に洗練されたプロセスであるといえます。

 

この顔認識の能力は、他の視覚パターンの認識と異なる特殊なメカニズムが関与すると考えられており、これは脳の側頭葉に顔のパターンにだけ選択的に反応する細胞が存在するという神経生理学的研究や、脳の損傷によって顔の認識にのみ障害を受ける相貌失認の患者の臨床例によって裏づけられています。

 

生理心理学におけるや神経の機能の発見には、実は病気や怪我が大きく関わっています。
代表的なものに分離脳相貌失認があります。病気や怪我になる前は問題なく生活ができていたものが、病気や怪我になった後から「特定の能力」だけが顕著に低下するということが起こることがあります。

 

ここから逆算することで、病気や怪我によって損傷してしまった脳(神経)の部位が「それまで担っていた機能」が分かるわけです。
顔の認識に関する能力について明確になったきかっけは、やはり病気の一種である相貌失認でした。

 

相貌失認とは、よく知っている人物の顔を見てもそれが誰だか分からず、新しい顔を学習(記憶)することもできない症状で、1947年に神経学者のボーダマーが独立した臨床症状として物体失認など他の視覚性失認から明確に区別したことから知られるようになりました。

 

相貌失認には、顔ははっきり見えており、顔に関する様々な知覚テストは問題なくできる連合型と、顔の知覚も障害されている統覚型という2タイプがあります。
相貌失認は重症な場合、自分の家族はおろか鏡に映った自分の顔さえわからなくなってしまうケースもあります。

 

目の前に居ても認知できない家族などの顔のイメージが浮かぶ例もありますが、顔だけのイメージが喪失し、場所や物品など他のイメージは残る場合もあります。

 

また、外界から色が消えて白黒の世界になる大脳性色盲や物体失認など、他の視覚認知障害も併存していることもあります(※相貌失認だけが単独で出現することも多い)。相貌失認の原因と考えられるのは、脳の後頭葉の損傷であると考えられています。

 

この相貌失認に関する発見が、顔・表情にのみ反応する脳や神経の細胞の存在を示唆するきっかけの1つとなりました。
顔認識のプロセスに関する研究は1980年代ころから、いくつかの理論やモデルが提唱されています。

 

これらの理論やモデルは、顔の同定が表情分析とは独立の過程であるとする点や、顔認識のモデルの原型として単語認知や顔以外の事物の認識過程のモデルを採用している点でほぼ共通しています。

 

そのようなモデルの1つとして、心理学者のブルースヤングが提唱したモデルは、視覚認識過程における以下のような4つの段階を想定しています。

 

(1) 観察された顔がありのままに記述(記憶)され、表情や発話の解釈に利用される。さらにこの記述(記憶)に基づいて、表情とは独立の同定に要する視覚情報が記述(記憶)される。

(2) (1)の記述(記憶)を顔認識ユニット内にある記述(記憶)と照合し、類似性(どれくらい似ているのか)に基づいて既知性判断(既に知っている顔か、それとも知らない顔かの判断)を実施する。

(3) 個人の意味情報(職業や年齢、住所等)の記憶に対するアクセスが実施される。

(4) この段階でいわゆる「名前」が生成され、明確な区別ができるようになる。

 

 

この4段階のモデルは、心理学者のバートン・ブルース・ジョンストンらによってさらに発展させられており、顔認識ユニットと人物固有コード、意味情報の三つの要素からなる顔認識過程の相互活性化モデルが提唱されています。

 

顔や表情に関する心理学はこころ検定4級の第6章でも概観していますので、興味・関心のある方は、是非、勉強してみていただければと思います。

 

著者・編集者プロフィール

この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部

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