クレームの日と心理学には、どのような関係があるのでしょうか
【目次】
日本では365日の全てに何らかの記念日が制定されています。9月6日は「クレームの日」に制定されています。これは、人材育成と組織活性をサポートする株式会社マネジメントサポートが制定したものです。日付の由来は「ク(9)レーム(6)」の語呂合わせからきています。
では、クレームと心理学には、どのような関係があるのでしょうか。
クレームは仕事において顧客との間で発生することが多いものです。そのため、産業・組織心理学では、感情労働という観点からクレームとの関係性について研究が実施されています。
そもそも、産業・組織心理学では人間の労働を3つに分類しています。まず1つ目は肉体労働です。これは自身の肉体を動かすことでパフォーマンスを発揮する労働です。2つ目は頭脳労働です。これは脳に蓄積された知識や情報処理能力を発揮する労働です。そして、3つ目が感情労働です。これは職業上の必要性から従業員が自身の感情をコントロールするということを“仕事”・“労働”として実施することを指します。従って、感情を使用・コントロールし、パフォーマンスを発揮することが感情労働であるということになります。感情労働は従業員が所属する企業・組織にとって望ましい感情を生起させることであり、必ずしも従業員自身の内的な状態とは一致しないことが多く、ストレスの原因となることが多いです。たとえば、顧客を喜ばせる・楽しませるために“喜”や“楽”などの感情が実際にはなくても、笑顔を作ったり、声を出して笑うという顧客対応をすることがあるかと思います。また、いわゆる「クレーム」への対応として、顧客から謝罪を要求され、罪悪感や後悔などの感情が実際にはなくても、頭を下げて謝罪したり、声のトーンを落として会話をすることがあると思います。同じく、顧客からの理不尽な要求に対して、本当は怒りを感じていたとしても、表情や声に怒りが滲み出るのを抑え、平静な対応をすることがあるかと思います。これらは全て感情労働であり、後者はクレーム対応の際に発生することが多いものであると考えられます。
そして、感情労働には種類があり、表層演技と深層演技の2つに分類されます。表層演技とは、自分自身の感情が他者にとって望ましいものであることを装うために表情や仕草を実際の感情とは異なる状態に変化させることを指します。深層演技とは、他者にとって望ましい感情を自分自身で生起させたり、自らの感情をコントロールさせることを指します。感情労働は自らの実際の感情とは異なる感情の生起や、実際の感情と一致しない行動・態度を生起させることになるため、感情の葛藤状態である感情的不協和を引き起こす場合が多いとされています。感情的不協和は心理的な不快感をもたらすものであり、ストレッサーとなります。従って、感情労働に従事することで、心身の不調や仕事に対する満足度の低下などが発生することがあります。
なお、感情労働の多い職場として、対面(音声)による顧客接触が不可欠な業務、顧客に何らかの感情変化を引き起こさせる業務、管理職が従業員の感情をある程度管理している業務が挙げられています。これらの共通点はいわゆる第三次産業であるということになります。
また、感情労働との関連の深い概念として、バーンアウト(燃え尽き症候群)があります。バーンアウト(燃え尽き症候群)は主に産業場面の仕事上の問題として、心身両面の疲労やモチベーションの低下、作業能率の低下、自他に対する否定的感情や態度の発生などを伴う状態のことを指します。バーンアウト(燃え尽き症候群)は医療・看護・介護福祉・教育などの対人サービスを主とする業種や、慢性的に高いストレスに曝される業種に多いとされています。これらの業種は感情労働に従事している場合が多く、感情労働による感情的不協和はバーンアウト(燃え尽き症候群)と関連が強いとされています。
このようにクレーム対応と感情、そして仕事のストレスという観点からも、クレームに関して心理学的な研究が実施されています。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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