コラム

感情に訴えることの心理学的な意味(1)

2023.4.13
  • コミュニケーション
  • 感情表現

感情に訴えるメッセージは、心理学的にどのような意味があるのでしょうか。 

 

 

私たちはコミュニケーションの過程で、自身の感情を表現することがあります。
同様に他者から感情を表現され、それを受け止めることもあります。
では、このようなコミュニケーションにおける感情表現は心理学的にどのような意味を持つのでしょうか。
 

様々な心理学的な研究の結果、感情表現やそれに伴う感情に訴えるメッセージには、人間の意思決定や行動に影響を及ぼすことが判明しています。
しかし、感情を露わにした側、メッセージを発信した側が想定した通りの効果を示さないケースもあることが判明しています。
 

たとえば、イスラエルで実施された心理学の実験が代表例としてあります。
イスラエルのハイファという地域の保育園10カ所で「子どもを迎えに来る保護者の遅刻」という問題を解消するための実証実験が実施されました。

これは、実際の社会問題(保護者の遅刻)を解決するための方法を探ることを目的としつつ、単なるルール変更などではなく、それが科学的にどのような効果があるのかを社会的な大規模実験として実施しているものになります。  


この実証実験の対象となった保育園は16時閉園というルールがありました。
にもかかわらず、時間通りに子どもを迎えに来ない保護者が非常に多いという問題がありました。
保育園の月謝は定額であり、先払いということになっています。
そして、
16時になったからといって保育園のスタッフが帰宅してしまったら、子どもたちだけが保育園に置き去りにされてしまいます。
しかし、保護者が子どもを迎えに来るのを待っている間、スタッフの残業代が発生し、それが保育園の経営を圧迫してしまいます。
そこで、どうすれば、保護者の遅刻という問題を解消・解決できるかを
実験によって検討したわけです。

つまり、どうすれば遅刻という行動を繰り返す保護者を説得し、遅刻という行動を変化させるということです。
これは、社会心理学における説得的コミュニケーションという分野で研究されています。
社会心理学では、主に言語的コミュニケーションによって、他者の態度や行動をある特定の方向に変化させようとすることと定義されています。

人間にはそれぞれ個人の態度(意見)があります。この態度が変化させることを態度変容とよびます。
そして、この態度変容を引き起こさせるのが説得というアプローチなのです。
また、相手に「うん」と言ってもらう、つまり、意見に賛成してもらう・協力してもらう方向で説得が成功した場合、それは応諾とよばれています。
社会心理学では、他者からの応諾を得やすくする方法についても研究が実施されています。 

 

さて、イスラエルの保育園での実証実験の話に戻りましょう。
実験では保育園を2つのグループに分けて検討しています。Aグループでは、10分以上の遅刻には、罰金が科されるという新たなルールが設定されました。
Bグループでは、遅刻に対して罰金はなく、今まで通りで特に新しいルールは設定されませんでした。
単純に考えれば、Aグループの方が罰金を支払うのが嫌だというネガティブな感情が発生するため、保護者の遅刻が減るのではないかと予想できます。
実験を実施する側も、仮説として同様のことを考えていました。

つまり、保護者からすると、遅刻によって罰金を支払うのはネガティブなことであり、この罰金というルールによって保護者は説得され態度変容が発生し、最終的に遅刻という行動が減少するという行動変容が起きるはずだということです。

しかし、実験の結果は仮説とは全く逆の結果でした。
Aグループの方がより多くの遅刻が発生してしまったのです。
これは、罰金が逆効果となってしまい、保護者達に「罰金を支払えば、遅刻が許される」という認識を植え付けてしまったからであると考えられます。
このように、相手にネガティブな感情や感覚を与えることで、説得や態度変容を試みようとしても、真逆の解釈や意味づけをされてしまうことで、予想とは真逆の結果が引き起こされてしまうということが明らかになったのです。 

 

もちろん、罰金の額が莫大なものであったり、別の罰が与えられるというルールであれば、結果はまた異なるものだったかもしれません。
しかし、今回紹介した実証実験のように、社会性が高く、現実場面をそのまま実験対象とするような場合、罰金の額も現実的・常識的なものとする必要があります。
そして、現実的な条件設定をした結果、罰金を支払えば遅刻が許されるという解釈が蔓延し、逆に遅刻が増えてしまうという結果を招いてしまったわけです。
 

 

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この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部

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