心理

2018/10/3

認知心理学とは

 心理学の一分野として、認知心理学があります。認知心理学は現在の心理学の主流であり、基礎・応用・臨床の全てにおいて重要な分野となっています。認知心理学とは、広義には知的機能の解明に関わる心理的過程全般を指しますが、狭義には1950年代後半以降に情報科学の影響を受け、人間を一種の高次情報処理システム(超高性能なパソコン)と見なす人間観に基づき、相互に関連する情報処理系を仮定し、そこにおいて実現される情報処理過程の解明によって、心的活動を理解しようとする心理学の一分野と定義されています。日本には、日本認知心理学会という学術学会があり、2018年度は9月に年次大会が開催されました。
 
 現在の認知心理学は、情報科学や言語科学と密接な関係を有する認知科学や脳科学との連携の下に発展しています。認知心理学の代表的な研究領域として、記憶に関する研究があります。
 初期の認知心理学においては、人間の記憶について、特定の情報が比較的安定した構造を持つ貯蔵庫を通じて逐次的に処理され、その過程における処理容量への制限が特定時間内での心的活動に影響を及ぼすと見なしていました。現在では、特定処理が完了した後に、系列的に情報が処理されるとする観点をとることは少なく、むしろ多くの場合、相互に影響を及ぼし合う並列処理的な観点が主となりつつあります。認知心理学では、心的活動が汎用的目的を持つ記号処理システムであると見なし、知的行為に含まれる処理システムの理解と、システムの運用を可能とする表象の解明を目標としていますが、最近では処理の並列性に加えて処理の分散性を考慮し、神経結合を模して、より微視的なレベルからモデルを構築しようとする非記号論的なアプローチも盛んに実施されています。これはまさに、人間 = パソコンという考え方に基づき、私たちの心は情報処理をするシステムであるという観点から研究を進めているわけです。
 
 認知心理学の発展は、その誕生以前に心理学で主流を占めていた行動主義との対比によって特徴づけられます。学習心理学者・行動分析学者であるワトソンらに代表される行動主義は、科学における観察可能性と論理実証性とを重視し、観察可能な刺激と反応の関係性の記述によってのみ、行動を記述する研究姿勢を推奨していました。その結果、行動主義は,多くの現象を刺激と刺激、あるいは刺激と反応間の連合によって説明することに成功を収めました。しかし、人間の心理がそれだけで全て説明できるわけではないとうことも、徐々に判明していきました。20世紀の後半を迎えるにつれ、言語の産出と理解や、思考における創造性、一般的な問題解決能力などの、より高次な心的活動の説明において、行動主義の考え方は限界を示し始めます。
 
 こうした研究動向を背景として、直接的には観察不可能な心的活動、特に積極的に情報を取捨選択し、意思決定を行っていく過程を主として研究する認知心理学の萌芽が形成されました。この流れからも、認知心理学が20世紀と21世紀を橋渡しする学問領域であることが分かると思います。ただし、1950年代以前に行われていた,認知心理学者のジェームズが提唱した一次記憶と二次記憶の区別や、同じく認知心理学者のバートレットが提唱したスキーマ(体制化された知識)による記憶への影響などの研究が、後の認知心理学の発展に影響を与えたこともまた、非常に重要なポイントといえるでしょう。実はスキーマは認知療法・認知行動療法などの心理カウンセリングにおいても重要な要素です。
 スキーマは、知識を構成するモジュールとして想定される概念であり、認知過程を知識に基づいて説明する上で広く用いられる理論的な概念です。特に知識に導かれて進行する能動的でトップダウンな過程の説明に中心的な役割を果たすとされています。うつ病等の原因の1つとして、このスキーマが上手く機能せず、自動的・瞬間的に思考・感情・行動を規定してしまうことが挙げられます。認知療法・認知行動療法は、問題となる認知を修正・変容させていくことで、クライエントの精神状態を改善させていきます。その過程で、クライエント個人の持つスキーマを正確に把握することが重要となります。

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