心理

2018/1/29

虐待と心理学の関係

 心理学・カウンセリング・メンタルケアにおいて、虐待は精神面に多大な悪影響を及ぼす要因の1つと考えられています。日本には、日本子ども虐待防止学会という学術学会があり、2017年には12月に年次大会が開催されています。
 
 虐待は個々のケースについては様々ですが、虐待という経験が共通してもたらすものに「不安」・「不信」・「一貫性の無さ」というものがあります。これらをより具体的に述べると「対人関係全般に対する強い不安」・「他者全般に対する強い不信感」・「養育環境が不安定であったことによる変化への敏感さ、もしくは鈍感さ」といえます。心理カウンセラーは虐待の被害者がクライアントとして来所した場合、クライアントにとって初めて「安心」して、「信頼」できて、「一貫性」のある態度・環境を提供できる人物となることが望まれます。
 これは来談者中心療法による傾聴を中心としたカウンセリングにおいても、具体的な心理療法の実施段階になっても同じで「安心」・「信頼」・「一貫性」の3つが重要なキーワードとなります。
 また、虐待は乳幼児や児童などの未成年者が被害者となり、その養育者が加害者となるケースが多く、その場合、被害者である未成年者の精神的発達や対人関係に大きな影響を及ぼすことがあります。その影響は一時的なものではなく、また、被害者-加害者間以外の全ての対人関係に広がる可能性があります。そして、虐待の影響が心身面の症状として現れることがあり、その症状は神経発達症(発達障害)の症状との類似点が指摘されています。
 
 精神疾患の診断マニュアルであるDSM-5には、「不十分な養育の極端な様式を経験している」という診断基準が設けられている精神障害があります。この「不十分な養育の極端な様式を経験している」に含まれるのが養育者によるネグレクトなどの虐待や、養育者(里親を含む)の頻繁な変更、環境が整っていない施設での養育などです。これらの原因による疾患は、疾患分類として、心的外傷後ストレス障害と同じ区分に分類されます。「不十分な養育の極端な様式の経験」というものに含まれる虐待・ネグレクトが養育者への不信感を生じさせ、それが今後の全般的な対人的コミュニケーションへの強い不安を発生させます。これは当事者の精神的な問題というだけに留まらず、学校・会社などの社会生活へも広がり、長期的で重大な問題となっていく可能性があります。そして、本来の養育者から離れて里親などによる養育となった場合に、養育者-里親間で養育内容が異なっていることが、まだ幼い子どもにとっては「一貫性の無さ」として認識されます。本来の養育者である両親と里親の自分への対応が全く異なるにも関わらず、どちらも「自分の親」であるという事実は、子どもの対人認知をとても混乱させる要因になってしまいます。
 
 虐待と関連の強い精神疾患として、反応性アタッチメント障害と脱抑制型対人交流障害の2つがあります。反応性アタッチメント障害とは、他者(養育者を含む)との対人関係が全般的に希薄で、他者との交流に対して感情を伴う反応をほとんど示さず、養育者や自分よりも年齢が上の大人が、普通にコミュニケーションをとろうとしても、いらだたしさや悲しみ、恐怖などを感じることが多くあります。脱抑制型対人交流障害は、まったく知らない赤の他人に対しても過度に馴れ馴れしく接し、またそういった他者と交流することにほとんどためらいを感じないという特徴があります。馴れ馴れしい態度は身体的接触だけでなく、言語的なものも含み、年齢的・社会的な規範から逸脱しているように見えます。
 つまり、本来は抑制されるべき対人交流の場面においても、抑制が働らかずにコミュニケーションを取るということです。脱抑制型対人交流障害の主症状は反応性アタッチメント障害とは真逆のようですが、診断基準として「不十分な養育の極端な様式を経験」、つまりはネグレクトなどの虐待などを経験しているという共通点を持っています。脱抑制型対人交流障害は一見すると、「人見知りをまったくしない」・「常に誰にでも馴れ馴れしい態度で接する」というだけで、問題はないように見えるかもしれません。しかし、他者が自分に対して悪意を持っていたり、騙そうとしていたりするとしても、脱抑制型対人交流障害のクライアントはそういったことをコミュニケーションの中で少しずつ確認するということをせず、誰にでも接触し、誰にでもついて行こうとします。従って、反社会的な他者や集団などにも、進んで接触・所属してしまい、トラブルに巻き込まれてしまうことがあります。
 
 このように、虐待は子ども時代の養育だけに影響するものではなく、既に虐待を受けなくなった青年期や成人期にも大きな悪影響を及ぼすものなのです。

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