心理

2017/5/2

縦軸と横軸でとらえる心理学

心理学には約100年近くの歴史があります。そこから派生する形で臨床心理学が誕生し、精神医学と連携する形でカウンセリングも発達していきました。
 
心理学やカウンセリング、精神医学の世界においても“流行り”があります。
書店によっては心理学のコーナーがあるところもあり、非常に沢山の専門書が並んでいるかと思います。書店に並ぶラインナップは流行り・廃れで変わるので“何から読めばいいのか?”が分からないという人も多いのではないでしょうか。また、専門家として活躍している方々にとっても、これは一時的な流行でしかないのか、それとも、画期的な新たな療法・技法なのかということが分からないということもあるでしょう。このように、心理学・カウンセリング・メンタルケアに関する情報は溢れており、「今」をとらえるのは、一見すると非常に難しいことのように感じるのではないでしょうか。そこで重要となるのが「縦軸」と「横軸」でとらえるという方法です。
 
 「縦軸」とは、歴史的な背景を遡って情報を確認していくという方法です。そして、横軸とは現在どのようなことが行われているのかをトータルで確認していくという方法です。たとえば、薬物療法という精神医学の手法について「縦軸」と「横軸」の両方の観点から見ていきましょう。まず「縦軸」で見ていくと、精神医学における薬物療法の歴史を遡るということになります。
薬物療法は1950年代の後半に確立されたものであり、人間の脳や神経に関する研究が進んだ結果として発展していきました。では、薬物療法が確立される以前はどうだったのでしょうか。
 
薬物療法が確立される以前には、精神外科という手法が主流となっていました。精神外科とは、ポルトガルの精神科医であるモニスによって創始された精神疾患に対する治療法で、精神外科では脳の前頭葉に対して、アルコールによる焼却切断、もしくはメスによる切断という手法によるものです。精神外科による手法は主に統合失調症や重篤な感情障害などのクライエントに実施され、術後は問題行動や激越な感情などが起こらず、非常におとなしく従順な性格になることが報告され、有効な治療法として精神医学の現場で定着していきました。また、モニスはこの功績により1949年にノーベル賞を授与されています。しかし、やがて精神外科には重大な問題があることが発覚しました。それは、外科手術の術後発作として、術前とは別の行動・感情の障害が発生する確率が30%程度あり、一見、おとなしく従順な性格になったという状態も前頭葉の機能である「意志」の部分が破壊されたため、「自分で考える」「計画を立てる」ことができなくなってしまったということが判明したのです。
その結果、1949年時点でアメリカにおいて年間約2万例実施されていた精神外科手術は、1970年代では年間約20例にまで減少しました。1975年には日本精神神経学会が精神外科による治療を否定する決議を採択し、現在では日本をはじめ、欧米でも非常に厳しい審査基準をクリアしなければ精神外科による治療は実施できなくなっています。そこで、精神外科に代わる安全な手法として確立されていったのが薬物療法なのです。このように薬物療法を「縦軸」で見ていくことで、それ以前にどのような手法があり、また、かつての手法に問題があったので、薬物療法が現場で進められていったという経緯が分かるのです。
 
そして、今度は「横軸」で見ていきましょう。薬物療法にも現時点で様々な問題点があります。治療・支援の方法として、精神外科のような侵襲性はないものの、長期間、服用を続けなければならないという問題や、副作用の問題などがあります。この問題を「横軸」で見ていくということは、現在実施されているもので、薬物療法以外の療法・技法による治療・支援ではどうなのかということです。
現在、認知行動療法による治療・支援がカウンセリング・精神医学の現場で多く実施されています。認知行動療法は薬物療法と並行して実施されることも多く、薬物療法単体での実施よりも、認知行動療法との併用が効果的であるという研究成果もあります。しかし、一旦は寛解しても、再び症状が悪化するということが精神疾患にはよくあります。薬物療法の場合、症状の再発に伴い、また服用する量が増えていくということがあります。これは、認知行動療法との併用でも同じです。そこで、現在注目を集めているのがマインドフルネス認知行動療法です。
 
研究の結果、マインドフルネスにはうつ病の再発防止に効果的であるということが判明しています。つまり、薬物療法の問題点を認知行動療法やマインドフルネスとの併用によって克服することも可能なのです。過去から現在へとつながる「縦軸」と、現在実施されている様々な手法の比較という「横軸」を両方見ていくことで、心理学・カウンセリング・メンタルケアについて深く知ることができるのです。

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