心理

2018/10/3

災害心理学とは

 2018年は夏にかけて、台風や地震などの自然災害が多く発生しました。災害で被害に遭われました皆様に、心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復旧を心よりお祈りいたします。
 
 さて、心理学の分野の1つとして、災害心理学というものがあります。災害に対する人間の心理的な反応や災害時の行動、さらには災害の社会的な影響を研究する領域を指します。ここでいう災害とは、地震・津波・火災・ガス爆発のような大事故など、主として規模が大きく被害者の多い災害を想定しています。しかし、規模が小さい、または被害者が少なかったとしても、被害者の精神的な打撃は無視できないという意見もあり、必ずしも規模や被害者数のみを基準に研究対象になるかどうかを決定しているわけではありません。
 
 災害心理学の基本的な立場として、人間的な原因による災害の発生(例:失火、ガス事故など)を可能な限り防ぐとともに、その発生が防げないような天災であっても、人間的な要因による被害の拡大を最小限にくい止めることを目的としています。災害に関わる人間の行動や反応の法則を発見するとともに、そのコントロールが研究における重要なキーワードとなっています。また,建築学や社会学などの他の学問領域からの知見を必要とすることが多く、災害心理学は学際的な研究も多くなされています。
 さらに、災害の被害者およびその家族の精神的な打撃がどのようなものなのか、また、それをどのように回復していくかは、主に臨床的な立場から検討されています。また、心理的回復に対する家族や友人、地域社会まで含めた周囲の人々からのソーシャル・サポートの影響、ボランティアの役割など、検討すべき課題は多いです。社会心理学の立場からは、災害時における避難行動・パニックの発生と制御の問題が盛んに検討されています。災害時のマスコミの報道・被災地での情報、さらには地震予知のような災害情報がどのように伝達され、人々に理解されているかについての研究も進められています。災害時の人々の行動には、日常の行動パターンや態度が影響しているという考え方から、集合行動・人々の災害観・災害に対する備え・リスク認知などに関する研究も行われています。これらの研究成果に基づいて、災害に対する教育や啓蒙活動も災害心理学の専門家の重要な役割となっています。
 
 災害心理学において重要なキーワードの1つに流言があります。流言とは「正確さを証明することのできる具体的なデータがないにも関わらず、口から耳へと伝えられて、次々と人々の間に言いふらされ信じられていく出来事に関する記述」と規定されています。また、ある事柄についての流言の広がり方は以下のように定式化されています。
 
 (R): ある事柄についての流言の広がり
(i): 集団成員の生活でその事柄が持つ重要性 ⇒ R = a × i
 (a): 曖昧さ
 
 心理学者のロスノウらは、流言の伝達には曖昧さに加えて、不安が重要な役割を果たしているとしています。また、オルポートらは、伝達内容は流言の伝達の過程で不要な部分が切り捨てられ(平均化)、一部が誇張され(強調化)、さらに意味的に一貫したものに変容させられる(同化)としています。しかし、実際の流言プロセスでは、平均化とは逆に、より複雑な変容が一般的に観察されることがあるとされています。さらに、流言を人から人へと伝える伝達ゲームのようなコミュニケーション過程として捉える立場に対し、心理学者のシブタニは、流言を集団行動としての曖昧な状況の解釈のプロセスと規定しています。周囲に曖昧な出来事が起こった際、人々はその出来事に納得のいく説明を集団で考えていきます。そのプロセスが流言の拡散過程であるとしています。それため、伝達の過程で次々と新しい解釈が加えられ、結果として“うわさの変容”が発生するとしています。また、人々が流言を伝える動機として、心理学者のファインらは情報を伝える(得る)、人に影響を与える、楽しむためなどを挙げています。
 
 当初の流言に関する研究は、情報を伝えるという道具的コミュニケーションとしての流研究が主でしたが、次第に楽しむためという自己完結的コミュニケーションの側面からの研究も実施されるようになっています。情報化社会の流言の伝達メディアは、対面的なコミュニケーションに限定されず、雑誌・新聞やテレビ・ラジオ、マス・メディアや電話、インターネットなども含まれ複雑な様相を示しています。このような複雑な状況の中で、そこにさらに災害という危機的状態が加わることで、流言は被害を拡大させていってしまうことがあるのです。

ページ一覧に戻る