心理

2017/6/14

景色の心理学

 景色や景観は、私たちが生活する中で何気なく目にしているものであり、心理面に様々な影響を与えるものであることが分かっています。心理学では特に環境心理学の分野で景色や景観についての研究が実施されています。
 
 環境心理学とは、自然環境だけではなく都市環境も含む物理的環境全てを対象とする心理学の分野です。たとえば、気温・大気汚染・騒音などの環境ストレスや、照明や間取り、記号的要素(看板など)、建物のサイズなどのデザインなどについて検討されています。そして、より良い景観を作り出すことや、その良い景観が人間のストレスを軽減したり、リラックスさせたりするということについて研究し、より良い街づくりや自然環境の保護などが実施されています。
 
 心理学などの学術的な分野において、景観にはいくつかの分類があります。最も一般的なのは、目で知覚することのできる景観であるランドスケープがあります。人間は視覚に頼っている部分が大きいので、ランドスケープは非常に身近なものであるといえるでしょう。しかし、私たちは目以外にも景観を知覚しており、聴覚によるサウンドスケープ、嗅覚によるスメルスケープなどもあります。また、知覚された景観はその場限りのものではなく、私たちの記憶、特に自伝的記憶と関連が強いということが研究の結果、判明しています。自伝的記憶とは、エピソード記憶の1種であり、特に個人の人生にとって重要な事柄やアイデンティティに深く関与すること、強い感情を伴う出来事などに関する記憶です。私たちは景色・景観を5感で知覚することによって、関連する記憶と感情が影響を受け、それらの影響を受けた上で、景色・景観に対する印象や評価などが決まるとされています。
 
 また、景色・景観に対する「良い」・「悪い」の評価には意味・関与・視覚的配列・三次元空間の4つの次元から構成され、一貫性、複雑性、明瞭性、神秘性で評価されます。これは、カプランの好みのマトリックスとよばれるもので、一貫性とは環境構造の知覚、明瞭性とは環境の分かりやすさ、複雑性とは環境が学習に値する多様性の程度、神秘性とはより多くの環境情報を得る見込みの程度を指します。私たちが5感で知覚する景色・景観には「見えてない部分」・「知覚できていない部分」というものがあります。遠くの山を見たり、高層ビル群などを見る際、目に映っている景色・景観があるものの、全てが詳細に目で見て確認できているわけではありません。これは明瞭性が無い部分があるということであり、何らかの危険があるかもしれないということになります。そこで、単に景色・景観を目で見るだけではなく、地図を見たりすることで、私たちは心理的に安心を得ることができるのです。
 
 より具体的な研究として、住宅の外観に対する評価に関する調査があります。研究では、20代から80代の男女約800人程度に住宅の外観写真を見てもらい、建物としての印象を評価してもらうというものです。研究の結果、住宅の外観に対する「良い」・「悪い」という評価は、年齢や性別などに関係なく、同じような視点で同じような印象を持ち、同じように評価しているということが判明しました。この結果は、一見すると、景観の良し悪しに対する評価には個人差が無いように思えます。この調査では、最も高い評価を得た住宅と最も低い評価を得た外観は非常に似ていました。しかし、最も評価の低かった住宅は著名な建築家が設計したものであり、建築関係の専門雑誌にも掲載された芸術的な作品だったのです。そして、この住宅の設計を建築家に依頼した依頼主の好みとしては、非常に評価の高い住宅であったわけです。たとえ、800人が「悪い」と評価していたとしても、それを「良い」と評価する人もいるわけです。
 
 このように、景色や景観は様々な形で私たちに影響を与えており、私たちもより良い生活のために景色や景観をコントロールしようとしています。物理的なものである景色や景観も、人間が関わるということによって、心理的な存在になるのです。

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