心理

2017/8/7

ゲシュタルト療法とは

 ゲシュタルト療法について解説する前に、まずは「ゲシュタルト」とは何なのかということを説明する必要があるでしょう。ゲシュタルトとはドイツ語で形、形状、全体性などの意味を持つ言葉です。元々は知覚心理学や認知心理学に関する用語であり、人間の心理・精神というものは、様々な要素の寄せ集めではあるものの、個々の要素を集めたらそれが単純に全体を表しているのかというと、必ずしもそうではないということを指します。
 
 心理学では、構造主義と行動主義という考え方が主流となっている時代がありました。構造主義とは、個人が経験・体験する出来事に対する知覚・認知は単純なものであり、ただ単にそのまま記憶されるものであるとされていました。
 例えば、「部活でサッカーの試合に出場して、リーグ優勝をした」という出来事を体験・経験した場合、それは記憶されるものの、その他の心理的側面に影響を及ぼすものではなく、単体で存在しているだけということです。構造主義の考え方では、個々の出来事は個別の経験として記憶され、それらを寄せ集められることで、個人が成り立っているとしています。一方で、行動主義では、人間の心理について研究・検討する際に、目で見て観察することができない認知や感情は取り扱わないものとし、目で見て観察することができる行動や反応のみを対象とするというものです。行動主義は、人間の複雑な行動や反応を単純な要素に分解できるとしています。これも構造主義と同様に、分解した細かい行動・反応をつなぎ合わせると、複雑な行動・反応が成立するという考え方です。しかし、これらの「部分を集めれば、それが全体となる」という考え方は人間の心理・精神には必ずしも当てはまらないのではないかという理論が提唱されました。これは、ドイツの心理学者であるケーラーやコフカ、ウェルトハイマーらが提唱したものであり、彼らがドイツ人であったこともあり、ドイツ語の「ゲシュタルト」という言葉が用いられました。ケーラーらはゲシュタルト心理学という分野を新たに確立し、「人間の心は必ずしも部分の総体ではない」ということを様々な実験によって明らかにしていきました。
 
 ゲシュタルト療法は、このゲシュタルト心理学の要素を心理療法に活かしているものです。ゲシュタルト療法は、まだ精神分析が主流であった1940年代にフレデリック・パールズによって創始されました。パールズは、過去の経験や生育歴の探求よりも、「今、ここで」のクライエントの機能や関係性、全体性(ゲシュタルト)に焦点を当てることを目的とした新たな心理療法として、ゲシュタルト療法を確立させました。ゲシュタルト療法は、人間の精神的な成長は環境から必要とされ、要請されていることへ同化することによって成されるとしています。また、精神疾患や神経症状態は、環境との関係が妨害されていることによって引き起こされるとしています。ゲシュタルト療法では、エンプティ・チェアやホット・シートなどの技法を用い、クライエントの自己責任の感覚を促進させ、自身の感情を自然に受け入れ、様々な気づきを促すという特徴があります。そして、ゲシュタルト療法は、クライエントのパーソナリティを成長させることも重要な目的として設定しています。ゲシュタルト療法を実施する際は、個人療法としてだけではなく、集団療法として実施することもあり、心理カウンセラーは療法実施時にクライエントの非言語的コミュニケーションにも注意を向け、それについてクライエントに指摘して、その意味を尋ねるという方法を取ります。
 
 パールズは、クライエント個人の欲求と体験との関係をゲシュタルト心理学の考え方に沿って捉え、排除されていた自己の部分を心理療法によって統合することで、個人のゲシュタルトが完成されるとしています。個人内のゲシュタルトが完成されることで、不適応が解消され、精神疾患の治療・改善が進むというのが、ゲシュタルト療法の考え方なのです。

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